見ないようにしていた、弱く弱く今にも消えそうな火が、消えそうなまま灯っていた。

幾度の雨風の夜を越えて、傘がなくとも屋根がなくとも、真っすぐ打たれ続けても決して消えなかった。

知っている。この火は消えない。そんな簡単に消えるものじゃない。

この灯りに、この熱に、数多の生き物が寄ってきては、バチバチと羽音を立てた。灯っているから、熱いから、その火が羨ましいか、妬ましいか、それとも馬鹿らしいか、恥ずかしく見えるか。彼らは引っ切り無しに周りをうろついた。

前が見えない、邪魔だと手で払えば、この手が悪となるだろう。灯りは目立つ。目立つお前が悪いと言われても、この火はお前らを導くためのものでも、邪魔するためのものでもない。

この火は今から歩く道を照らすものだ。見えない道を、照らしただけだ。

足は黒ずんで、擦り切れて、歩く。裸足で、かさぶたになって、めくれて、歩く。ここに来るために僕は歩いてきたんだ、そう思った場所で、そう思ったのは僕だけで、ひび割れて、化膿して、もう感覚なんてなくなって、歩く、歩く、歩く。

さぞかし面白いだろう。笑うやつを笑って、歩く。

休めと言われて、歩く。走れと言われて、歩く。歩けと言われて、どう思う。

この旅の始まりはなんだったか。

暗闇の中、どこにいるのかわからないけど、一歩先がぼんやり見える。だから歩く。

この旅の始まりに、心を置いてきたような気がする。だから歩く。

心はそこにあるから、歩く。この身体がどうなろうと、この火に燃やし尽くされ灰になろうと、心はそこにあるから、歩く、歩く、歩く。

見ないようにしていた、弱く弱く今にも消えそうな火が、消えそうなまま灯っていた。

飛べ、お前ならいける、と声がした。そう聞こえた気がした。

こちら無風、眺め悪し、長めの滑走路にて向かい風を待つ。